2008年09月07日

「正しい『行く夏を惜しむ』ためのアダージョ」

気がつくと、夜が落ちていた。
記憶から意識がぬけ落ちようにベッドに沈んでいた俺は、身を起こそうとすると、腰に激痛が走った。
おかけで、すべての記憶を取り戻した。

サイドテーブルのランプに火を点し、揺れる炎をみつめていると、愛猫ムツが、俺をいたわるように身体をすり寄せてくる。
「どうしたムツ? 散歩でもいくか」

近くの神社へ。
距離にして、20メートル。
途中、立ち止まっては、息を継ぎ、足を進める俺。
その傍らで、一緒になって足を止めるムツさん。

境内までの階段を、一歩一歩、腰をかばいながら、上る。
ムツも、階段で息を整える。
一気に上りつめた昔とは違い、ムツさんも年をとったもんだ。
階段の途中で、苦笑いを交わす俺たち。

秋祭りの名残りが、境内をほのかに照らしていた。

俺たちは、イチイの大木に身を預け、風に揺れる葉のざわめきに耳を傾ける。
天を見上げると、イチイの梢の先に、闇が深さを増していた。

大気ににじむネリウマの里。
人々の暮らしが、伝わる。

視界の隅に、マッチの炎が揺らめいた。
境内の片隅で、一組の家族が、花火に興じている。

父親が持つ線香花火の丸くなった火薬の火花を、じっと見つめている一人の少女。
その傍らで、彼女を包むかのように腰を落とし、同じように見つめる母親。
なぜか、切なさを覚える風景。
行く夏を惜しむ、一幅の絵のように。

一つ、また、一つと境内に点された提灯が火を落とす。
線香花火の火球が落ちると、静寂があたりをにつつむ。

風に枝を震わせていたイチイの木も、眠りにつくころだろうか。

夏を過ぎた線香花火のかすかなにおいを後に、俺とムツは、夜陰に身を沈ませていった……。
行く夏に、秋を迎えに。




著者注=正しい「行く夏を惜しむ」あり方というものは、このようなものでなければならない、とどこぞの連中に強く俺は言いたい。
ま、どうでもいいが。
posted by Jhon Done at 00:00| Comment(0) | それだけのことさ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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